story
No.34 北国に伝わる毛織物 ホームスパン
去年の今頃、はじめて訪れた盛岡は寒さも本格的になろうとしていました。
木造の建物のなかでは機を織る音とストーブに置かれたヤカンの湯が沸く音だけが聞こえてきました。
今回伺った「みちのくあかね会」は盛岡市にあります。
古い病院を工房にし暖かな室内には数人の女性が無心に糸を紡ぎ、機を織っていました。
木造の温もった匂いのなか私はどこか懐かしい気持ちになりました。
岩手のホームスパンの歴史は古く、昭和のはじめに羊の飼育がはじまったことによります。
当時は岩手の牧場で飼育していた日本コリデール種という羊毛をつかって、
女性が紡ぎ毛織物やセーターを作っていました。
その後、国の政策でめん羊飼育が中止され羊を飼う家庭はなくなりましたが、
手紬手織りの伝統は今もこの土地で受け継がれています。
あかね会の工房では40代から80代の女性がはたらいています。
染色、カーディングしたのち、手で紡いでいきます。3番から10番まで 手かげんひとつで紡いでいくのです。
経糸はって
織っていきます。
人の手で紡いだあまよりの糸からは機械織りでは出せない独特の風合いがうまれ、なんともいとおしくなります。
北国岩手の冬はながくきびしく、農閑期、女性たちは家にこもって自らの着衣を つくるのが仕事だったのでしょう。
いつも手仕事に出会うたび人の暮らしのなかでうまれた文化や伝統は、
農業や生活の必然的なものから生まれるものだということを感じます。
工業化がすすんでもひとを惹きつけ続ける伝統工芸は、
実用から生まれる美のおくゆかしさなのだと思います。