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story

No.63 静物画のなかの果物


だいぶ古いはなし。
はじめて南仏を訪れたとき、Aix-en-Provenceの公園で、なにげなくふりかえるとむこうのほうに記憶にある山が目に入り、はっとした。

午後をまわり日も落ちかけ少しだけピンクがかった夏の山は、私にそこまで鮮明に輪郭をとることはできなかったぶん、間違いなくかつて美術館でみたことのある彼の描く故郷Sainte-Victoireそのものだった。

南仏特有の石灰岩の白い山は、季節、天候、時間によってさまざまな表情を彼にみせたに違いない。

あぁ何年ものときをこえて、多面多色で描いたAix-en-Provenceの風景は、時空を超え、いまの私たちにもかわらず同じ表情をみせ、彼はたしかにここに居てこの山を描いたのだと感動したのをおぼえている。



彼はたくさんの静物画も描いている。
食卓の果実や壺、亜麻布など、のちにキュビズムという表現に影響をあたえたように多面的に表現されたさまざまな静物は単なる単純化ではなく、私には光と色、質感の集約と素直で静かな迫力を感じる。

そこから汲みとることのできる温度や匂いは当時の自然物からしか生み出されないものであることを想像すると 私は当時へ憧憬の思いを抱かずにはいられない。



平真実




Les Poires 静物画のなかの果物
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