story
No.55 15年をむかえて
リゼッタがはじまって今年で15周年になりました。
なんだか長いようであっという間の年月でしたが、皆さまには本当に感謝しかありません。
このブランドはリネンがそばにあったこともあって、リネンをつかった服が多いのは説明するまでもありません。リネンは私が好きだと言うこともありますが、とても肌に気持ちがよく、とくに夏のリネンはとても涼やかで、私にとっても夏とリネンは切り離せないものとなっています。
もうずいぶん昔のことですが、夏に訪れたヨーロッパでリネンに出会い、夏服としても、暮らしにも日常的に使われている素材でした。そしてヨーロッパを訪れるたびにその魅力に惹かれ、そしてこの良さを知ってほしい、伝えたいと思いました。
当時リネンは高価でシワになりやすいという先入観からなかなかお客様に理解していただけなかったことを記憶しています。でも洗いざらして着る気持ちよさや、1年中着用できることを丁寧に伝えていきながら徐々にお客様も増えていきました。
前にもどこかでおはなししたかもしれませんが「LISETTE」という名前は、フランスの古い女性名で日本でいう「花子」みたいな感じでしょうか。 古いフランスの国語の教科書からもらいました。
「なつかしいねー。おばあちゃんがLISETTEだったよ!」
なんて名刺をみせると言われたこともありました。
そんな、プレタポルテができて誰でも気軽に服が買えるようになる前、1枚の布地から大切なひとのためにつくりだす1着。それを丈をつめたり伸ばしたり、修繕をくりかえしながら着尽くしてもらえるような、昔の町にあった洋装店のようになれたらいいなと思っていたのかもしれません。
衣服を身に纏うのは人間だけ。
日々の暮らしのなかで衣服は必然的にあるもので決して特別なことではありません。ファッションとは別のものと考えがちで、たまにはオシャレをして…。そんな時ももちろんありますが、もっと身近で日常的なものだからこそ、普段着るものの心地良さが大切だと考えています。
当時、少しずつリネンの服の認知度が高まってきて、来てくださったお客様にリネンに挑戦してみたいと相談され、ビジネスシーンに使う服ばかり持っていて、日常はなにを着ればいいのか。どうやってドレスダウンしていいかわからないと言われました。
この15年そういった意味ではファッションと暮らしの距離は縮まったと思います。逆に言えばTPOなんて言葉は古くなったのかもしれませんね。良くも悪くもビジネスシーンでも晴れの日もケノ日の服装も、その境界線は薄まってきているように思います。
長くなりましたが、今日までリゼッタは服やバッグ、下着からタオル、シーツなどたくさんの商品をつくってきました。それは全て肌触りや機能性に重視しながら、大勢の生地をつくる方、縫製される方、さまざまな製造業の方々の集大成にほかなりません。
こうした方々の努力や熱意の誇りのうえに、私たちがつくりたいものをつくれること。そして揺らがない気持ちでつくり続けてこられたのは、私たちのつくるものを受け入れ、価値を見出してくださるお客様がいてこそ…。
昨今の世情で多くの製造業の方たちが、その高い技術を持ちながらも惜しまれつつ廃業されます。それを目の当たりし、私たちは無力さを感じずにはいられません。世の中が移れば職業も変わっていくのは当然なのかもしれませんが、その傍らで失うものの多さとスピードに驚かされます。
ながく生業としてきた服づくり。常に思うことは、日々身につけるものが身につけたくなるものでありたいということ。自然に手に取るもの全てが心地よく、使い手だけでなく作り手にとっても優しい服でありたい。そうやって美しい循環をつくることができたなら幸せです。
平真実