story
No.68 御礼
細かなタックをとってローウエストに切り替えたワンピース。これはイタリアの生成りのヘリンボーンリネンでつくりました。私はこのワンピースが大好きで、もう20年近く、今も着ています。このあと、ギンガムチェックやプリント地、さまざまなリネンでつくってきました。
この頃から服に名前をつけるようにしました。それは、私が以前勤めていた会社のフランス人デザイナーの影響ですが、今思えば、フランスのブランドはデザインによく名前をつけているみたいです。
このワンピースは「オルガ」と名付けました。子どもに名前を付けるように、ひとつひとつ顔を見て名前をつけます。
20年という年月のなか、「ニコル」「アニエス」……。それが、それでなくてはならないわけではないのですが、私のなかでひらめいて名付けたデザインは、定番として残っていくような気がします。
まだまだつくりたいものがたくさんあった頃、何気なくつくったものが、長く愛されることになることもあります。当時はまだ、麻=「しわになりやすい」「高級素材」というイメージが強かった時代。ヨーロッパなどで高級ブランドがバカンスにつくるリネンのスーツやワンピースをイメージされている方もまだ多く、もっと洗いざらした、日常生活に溶け込むようなリネンの服をつくりたいと思いました。たくさんの方にリクエストされ、長く愛してもらえたことは感慨に堪えません。
私は、ものづくりに至るまでのプロセスとディテールを大切にしています。
素材には、それぞれ生まれてきた背景があります。その背景を大切にしながら、私自身のディテールを重ね、素材の魅力を余すことなく引き出したいと思っています。そして、ほんのわずかなバランスを探りながら、着てくださる方の姿を思い浮かべながらつくります。
しかしながら、プレタポルテだからこその限界があります。たくさんの方たちの体型や年齢などは、それぞれ違います。大衆に向けてつくられはじめた量産型の衣料品として始まったプレタポルテですが、母が若い頃に着ていたのであろう、洋裁店で仕立てたツーピースやワンピースを押し入れから見つけ、こうやってひとつひとつ生地を選び、ボタンを選んで、人に合わせて仕立てていた時代があったのかと驚きました。
私にとって「布(糸)」は原石のようなもの。ひとつひとつ見つけては、どんなふうに磨いていけばこの石は生かされ、輝くのかを考える時間が至福でもあり、ときに苦難でもあります。
なにが好きで、なぜ好きなのかを模索しながら、新しい発見も感動もあり、ときに自分を恥じることも。そんななか、人の手がつくる緻密さや精巧さから生まれる温もり、曖昧さに愛着を感じ、同時に、時代とともに人の手の素晴らしさを失う恐怖も感じてきました。
時代は移ろいます。たった20年という年月のあいだにも、なくなってしまったもの、もうつくれなくなったものが数多くあります。
蚤の市で出会った「かご」や「がま口のバッグ」、お土産用のブローチなど、もう一度この世に送り出したいと熱願し、国内外の職人たちに出会ったことは、私の財産でもあります。
スピードをあげて、convenienceだけを追求され、私たちの内心につくられる何か大事なものさえ、便利さだけを追い求めるがゆえに育たなくなってはいないのか。
人が手を動かし、尽くしてきたものたちを受け継ぐ、少しでも下支えになればと考えましたが、大きな時代の流れに、私など非力でした。
さまざまな技術をもった職人たち。失ってきた彼らは一職人にすぎないのかもしれません。でも、彼らを失ったことによる損失は、もう取り戻すすべはほぼないのです。
産業革命の時代にも、多くの職業がなくなっていきました。現代もまた、大きな変化のなかにあります。私は、このことに執着することが正しいのかもわからず、自分自身を見失ってしまいそうで逡巡する日々です。
人は、時代や年頃で好きなものは変わっていくけれど、心の奥底にある好きなものは変わらないのかもしれません。生まれもった感性も、幼少の頃の体験や人との出会い、訪れた場所も、蛇行する人生のなかで自分の血肉になってきたように思います。
とりわけ、フランスで出会った亜麻の生成り(flax)は、私の心をつかみ、今に至ります。そこからの私は、亜麻という素材に心酔していきました。
20年余り、布、とくにリネンを扱うことを生業にでき、抱き合わせてきた思い出はマクロに記憶されていて、子どもの頃から憧れていたペチコートやペチパンツもつくりました。
古いものが好きで、突き詰めて考えたのがアンティークのような白です。
よく「100年前に生まれたらよかったのにね」と言われたので、今だと120年前ということになりますね。
何年か前、フランスで白髪のムッシューに「クラシックで素敵なジュプだね」と褒められたことがあります。彼は現代の女性の服装を嘆かわしく語っていたので、この何とも時代錯誤なスカートが懐かしく思えたのでしょう。
マダムに呼び止められ、「このジュプはどこで買ったの?」とロシェルを指さして尋ねられたこともあります。私はフランス人に詳しいわけではありませんが、フランス人のこういうところが好きです。「そのバッグ、素敵ね」とか。赤の他人であっても気の置けない会話がうれしい。あと、次の人のためにドアを開けて待つところ。これは最近少し減った? 一度、50m以上向こうの人のためにドアを開けて待っていた若者がいて、ほほえましくて、すごく記憶に残っています。
話は逸れましたが、
たくさんのプレタポルテが生み出されるなか、20年間、心より御礼を申し上げます。
長くなりましたが、これからもささやかな人の気持ちを感じながら、どんなときも着る人の内面を弛緩するような……自分らしい服づくりを続けられたらと思っています。
平真実
現在、リゼッタでは20周年を記念した3つのアイテムをご紹介しています。
20周年という節目に選んだのは、デザイナーが長年心惹かれ続けてきた、やわらかで少し古ぼけたアイボリー。
その想いを、リゼッタ別注色のベルギーリネンにのせて。
20年の歩みを映す、3つのかたちが生まれました。
>LISETTE 20 ans ― ひとつの色、3つのかたち
