story
No.60 サーカス
いつもの岸辺の風景も夏になるとその傍らの広場から小屋を建てる音が響きわたる。その音に子供だけでなく大人までも高なる気持ちをおさえきれない。
日暮れとともにやがてそれはぼんやりとその輪郭をあらわす。
街のはずれ 色とりどりのテントはやがて夜の闇のなかにひときわその頭角をあらわし、やがて人々が吸い込まれていく。
こぼれ漏れる光や音や人の叫ぶ声。管楽器や打楽器、弦楽器たちが奏でる三拍子はどこか物悲しい気持ちにもさせるのはなぜだろう。おどけた道化師や大きな羽を被る馬、火の輪をくぐるライオン、空中ブランコに拍手喝采の人々。鞭打つ音…。
「サーカス」それは夢と哀愁を纏ったまるでお伽話の世界。犠牲のうえにある皮肉な寓話なのかもしれない。
かつて半世紀ほどまえまではあった、そんな風景…。