story
No.25 ラインストーンのブローチ
これはロバの背中になる部分。10センチほどの湾曲した金物は職人の手作り。
ねんきが入った機械や道具で埋め尽くされた小さな一室で私たちのブローチは作られていました。
「自分のやりいいようにね」
お椀型の丸みを帯びた金物に胡粉(日本画や日本人形に使われる貝を原料とした顔料のひとつ)を塗って、
その上に背中のカーブにあわせた金物を固定し、そこにピンセットで一粒ずつラインストーンを並べてかたちにし、
裏からそれをはんだ付けしていく。
なるほど、これならラインストーンが動かないし微妙な丸みもでる。
はんだ付けが終われば胡粉をきれいに掃除して、また胡粉の土台をつくってはラインストーンを並べていく。
根気のいる作業を繰り返しひとつひとつ手で作っていくから 1日にできるのはせいぜい10個だそう。
私たちは「もう少しカーブを」「もう少し耳をたてて」とかいろいろ注文をつけて 口で言うのは簡単だけど、仕事をみながら話をきいていて頭の下がる思いがした。すべてが職人の手加減で組み立てる手仕事でどんなに正確に作っても少しずつすべてが微妙に違っていて、それがまた たまらなく愛おしく思えてくる。
こうした手間と労力をかけた手仕事をする職人が減っているのは承知の事実である。だからいつも職人さんを探すのに苦労する。
そして技を持つひとに出会うたびに私たちは表現できる安堵の気持ちとよろこび、感謝と尊敬の気持ちが湧き起こる。
想いが具現化するときはいつも私たちは職人がいなくなることを嘆き悲しむのではなく、
この人がいなければ作り出せないものがあることを心にとめながら作らなければならない。
これから永い時間 使い手にその気持ちが届くよう。