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野村レイ子さんインタビュー 前編
ろうけつ染めの技法で、木箱に野草や伝統的な文様を描いて制作する野村レイ子さんに、ものづくりについてお話しをうかがいました。
前編は、アトリエでの制作の様子とろうけつ染めの技法についてです。
よく晴れた秋のはじめ、鎌倉駅からバスに揺られて野村さんのご自宅にお邪魔しました。最寄りのバス停で満面の笑みで私たちを迎えてくださった野村さん。鎌倉で暮らして約15年になるのだそう。気持ちよさそうなサンルームのそばにあるダイニングで一息つき、早速2階のアトリエへ。通された部屋に入るなり目の前には大きな窓、そこから青々と茂る裏山の野草が映りこみその眺めに思わず声が上がりました。作業テーブルの上には制作に必要な使い込まれた道具たち。使い勝手よくきちんと置かれてあって作品が生まれる空間に私たちも興味津々。
野村さんが制作する『ろうけつ染め』は、はるか昔から続く伝統的な染色方法で、日本以外の国でも同様の染色は見られるのだそう。
染色や道具のことを交え、ろうけつ染めの工程を教えていただきました。
①下絵を箱にうつす
ちょうど取り掛かっていたのはブドウと唐草模様を描いたオリジナルのモチーフ。トレーシングペーパーに「チャコールペン」と呼ばれる墨でできた鉛筆で下絵を描き、それを裏返しして箱に墨が写るように爪でなぞっていきます。
②ロウ書きをする
▲小型の卓上窯で熱したロウを筆にふくませロウ書きをします。
▲写した下絵を頼りにロウ書きをしている様子。
ロウで描いた箇所は冷えて固まると防染(色が染まらない)され、やがてそこが模様になります。木肌よりもやや黄色っぽい箇所はロウ書きをしたところ。頭の中に仕上がりイメージを描きながら黙々と筆を進めていきます。
③染色
▲テーブルの傍らにはボトルに入った染料たち。
使う染料はすべて天然のもので色は5色。赤はカイガラムシの一種のラックダイ、黄色はウコン、青は藍、紫はログウッド、グレーは木酢。細かな箇所は脱脂綿を巻き付けた手製の綿棒で染色し、広い面の時は手袋をしたうえから直接染めていきます。
あれ?でも5色以外の色はどうやって塗るのだろう。
例えば緑色に仕上げたい場合は、はじめにウコンの黄色を塗って乾いたら同じところに藍の青をかさねて緑色を作ります。染料同士を混ぜあわせて色を塗ってもきれいな色には仕上がらないのだそう。
▲木酢液を使いグレーを塗っている様子。
塗り終わるといったん乾かします。次は木肌が残る広い面を別の色で染色します。先にグレーに塗った箇所が別の色に染まらないよう上からロウを塗り防染します。仕上がりイメージを計算し、細かな作業が続きます。
▲グレー色のまま残すため、染色した後に上からロウ書きしている様子。
④ロウをふき取る
すべて色を染め終え2~3日かけてしっかり乾かした後、ベンジンをつかい塗ったロウを全てふき取り、ようやく出来上がりの姿が現れます。ロウをふき取るときはいつもドキドキするのだそう。
⑤仕上げにカナダ産のみつろうワックスを塗り、ようやく完成です。
▲作家の野村レイ子さん。すべての工程をご自身で仕上げます。